多様な働き方の一環である有期労働契約には、正社員との待遇差といった問題も存在します。平成25年に運用開始された「無期転換ルール」により、契約期間を無期限に変更することも可能ですが、どの程度利用されているのでしょうか。
●全事業所が対象となる「無期転換ルール」とは?
有期労働契約者(契約社員、アルバイトなど)が同一の使用者(企業)との間で、5年を超えて有期労働契約を更新した場合、申し込みを行えば無期労働契約(期間の定めのない労働契約)へ転換することが可能です。これを「無期転換ルール」といい、平成25年4月施行の改正労働契約法により規定されました。
「無期転換ルール」は企業規模に関係なく全事業所が対象となっており、有期契約労働者がこの権利を行使した場合、使用者は断ることができません。枠組みとしては労働者側のメリットが大きいルールに感じられますが、一筋縄ではいかない現状が、調査データで浮き彫りとなりました。
●ルールを知らない有期契約労働者は約4割にのぼる
厚生労働省が公表した「無期転換ルール」に関する実態調査では、2018〜2019年度に無期転換を申し込める権利を得た人のうち、実際に行使した人は27.8%でした。行使があまり進んでいない背景の一つとして、ルールそのものに対する認知不足が挙げられます。同調査で「無期転換ルール」に関して「内容について知っていることがある」と答えた有期契約労働者は38.5%、「名称だけ聞いたことがある」と答えたのは17.8%にとどまります。一方で「知らない」と答えた割合は、39.9%にのぼりました。
企業側でも5年の通算期間を満たした有期契約労働者に対し、無期転換できることを案内している割合が52.3%、現状で案内していない割合が40.4%となっています。その理由としては、担当者がルールの詳細を把握していなかったり、積極的な周知を行っていない等が考えられます。
●労働者側の意見から読み取れる現状
企業規模別で比較すると、無期転換を申し込む権利を行使した人の割合は「1,000人以上」で39.9%と最も高く、「5〜29人」で8.6%と最も低くなっていました。企業規模と権利の行使割合が比例した結果ですが、企業内でルールを認知しやすい環境にあるか、周囲の労働者が実際に権利を行使しているかといった要因が影響しているかもしれません。
労働者側の意見では、「無期転換ルール」が雇用の安定化のために有効だと考える割合は38.2%、有効ではないと考える割合は18.4%でした。有効ではないと考える理由について、「かえって更新上限等による雇止めが増える恐れがあるから」「罰則等の拘束力がないから」「無期労働契約へ移行できても、正社員になれるわけではないから」といった意見が挙げられています。
以上の調査結果からは、「無期転換ルール」を行使しても待遇改善につながるとは限らない現状が読み取れます。優秀な人材がふさわしい条件で定着できるよう、さらなる有効性を持った制度運用が求められます。
【参照】厚生労働省「無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況(修正版・10月12日掲載)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000817482.pdf